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    不法行為に基づく損害賠償請求権と除斥期間
     こんにちは。

     今回は,最近出た最判平21.4.28を踏まえて,不法行為に基づく損害賠償請求権と除斥期間に関する最判平.12.21(以下「平成元年判決」といいます。)と最判平10.6.12(以下「平成10年判決」といいます。)を解説します。

     最判平21.4.28は,出題範囲ではないと考えられるため,最後にさらっと触れるぐらいにします。

     民法724条後段の20年の期間が,前段の3年と同じく消滅時効の期間なのか,それとも,除斥期間なのか?

     起草者は,消滅時効の期間を定めたものであるとする意思でしたが,学説上は,除斥期間説が有力となりました。

     そして,平成元年判決は,この通説の除斥期間説を採用するに至りました。

     

     民法724条後段の規定は,不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解するのが相当である。けだし,同条がその前段で3年の短期の時効について規定し,更に同条後段で20年の長期の時効を規定していると解することは,不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する同条の規定の趣旨に沿わず,むしろ同条前段の3年の時効は損害及び加害者の認識という被害者側の主観的な事情によってその完成が左右されるが,同条後段の20年の期間は被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるからである。



     その後,ある事件が起こりました。

     X1は,生後5か月に旧予防接種法に基づく集団接種を受けたのですが,1週間後から,けいれん,発熱を発症し,その後,高度精神障害,運動傷害を伴う寝たきりの重度心身障害者となりました。

     接種の時から20年後,X1,X2,X3(Xの両親)は,X1が予防接種によってこのような状態になったことについて,Y(国)に対して,国家賠償法1条に基づく損害賠償,安全配慮義務違反による損害賠償又は憲法29条に基づく損失補償を求める訴えを提起しました。

     なお,提訴時において,X1は22歳でしたが,途中色々あっての第1審後,禁治産宣告を受け,X2が後見人に選任されました。

     Yは,この訴えは,民法724条後段の除斥期間の経過後に提起されたから,Xらの請求権は消滅していると主張し,Xらは,Yの主張は,信義則違反であるなどと主張しました。

     この訴えが予防接種時から20年を経過した後に提起されたものであるため,平成元年判決に従うと,Xらの損害賠償請求権は,いずれも除斥期間の経過によって消滅しているように見えます。

     他方,X1は制限行為能力者であって,自ら除斥期間内に権利を行使することが不可能でした。

     このような場合に,平成元年判例を形式的に当てはめるべきなのでしょうか?

     平成10年判決は,次のように判示しました。なお,「無能力者」は「制限行為能力者」に,「禁治産宣告」は「後見開始の審判」に読み替えて下さい。

    1 民法724条後段の規定は,不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり,不法行為による損害賠償を求める訴えが除斥期間の経過後に提起された場合には,裁判所は,当事者からの主張がなくても,除斥期間の経過により右請求権が消滅したものと判断すべきであるから,除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は,主張自体失当であると解すべきである(最高裁昭和59年(オ)第1477号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁参照)。
    2 ところで,民法158条は,時効の期間満了前6箇月内において未成年者又は禁治産者が法定代理人を有しなかったときは,その者が能力者となり又は法定代理人が就職した時から6箇月内は時効は完成しない旨を規定しているところ,その趣旨は,無能力者は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから,無能力者が法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を認めるのは無能力者に酷であるとして,これを保護するところにあると解される。
    これに対し,民法724条後段の規定の趣旨は,前記のとおりであるから,右規定を字義どおりに解すれば,不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前六箇月内において心神喪失の常況にあるのに後見人を有しない場合には,右20年が経過する前に右不法行為による損害賠償請求権を行使することができないまま,右請求権が消滅することとなる。
    しかし,これによれば,その心神喪失の常況が当該不法行為に起因する場合であっても,被害者は,およそ権利行使が不可能であるのに,単に20年が経過したということのみをもって一切の権利行使が許されないこととなる反面,心神喪失の原因を与えた加害者は,20年の経過によって損害賠償義務を免れる結果となり,著しく正義・公平の理念に反するものといわざるを得ない。そうすると,少なくとも右のような場合にあっては,当該被害者を保護する必要があることは,前記時効の場合と同様であり,その限度で民法724条後段の効果を制限することは条理にもかなうというべきである。
    したがって,不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前六箇月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において,その後当該被害者が禁治産宣告を受け,後見人に就職した者がその時から6箇月内に右損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法158条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。



     最高裁は,以上のように判示して,第2審判決の国家賠償請求に関する部分を破棄して,原審に差し戻しました。

     平成10年判決は,民法724条後段の規定は,除斥期間を定めたものとする平成元年判決を踏襲しましたが,民法158条の法意に照らして,同法724条後段に規定する除斥期間経過後であっても損害賠償請求権を行使することができる場合があることを認めました。

     注意を要するのは,民法158条を類推適用したのではなく,あくまで,同条の法意に照らして,平成元年判決の例外を認めた点です。

     これは,被害者救済のため,平成元年判決の例外を完全に排除することはできない反面,除斥期間とは,期間の経過によって権利が当然に消滅するものであるため,たやすく平成元年判決の例外を認めるべきではないからです。

     すなわち,平成10年判決は,『平成元年判決の例外中の例外』を認めた判例なのです。

     最高裁調査官によると,除斥期間説に立ちながら幅広く例外を認めるなら,平成元年判決に抵触するため,大法廷による判例変更が必要だと言っている例外なのです。

     そんな中で,出たのが,最判平21.4.28です。

     この判例については,以下をご参照下さい。

     上記が理解できていれば,判文を読んでも理解できると思います。

     最判平21.4.28

     ところで,上記判文の意見の最後の部分にこういう記述があります。

     

     おって,現在,法務省において債権法の改正作業が開始されているところ,時効制度の見直しに当たっては,かかる観点を踏まえた見直しがなされることを望むものである。



     面白いですね。

     では,また。

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